骨粗鬆症については多くの方が関心を持つようになり、治療法もかなり進んできました。しかし、正確に診断され、適切に治療されている患者さんの数は決して多くありません。
防げる骨折が防げず、骨折で苦しむ方が後を絶ちません。
院長はこれまでライフワークとして骨粗鬆症の研究を続けて参りましたが、最先端の研究成果を踏まえた最適な治療を皆様に提供して参ります。
骨粗鬆症は骨がもろくなり強度が落ち、骨折しやすくなる病気で、最新の調査によると日本の骨粗鬆症患者数は約1590万人と推定されています。
高血圧の4300万人、糖尿病の1150万人と比較しても、かなりの数の骨粗鬆症患者さんがいることになります。
厚生労働省の調査によると「65歳以上の方が要介護となった主な要因」は、運動器の障害(「転倒・骨折」「関節疾患」)が「認知症」や「脳血管疾患」、「高齢による衰弱」を抜いて第一位であります。
しかし骨粗鬆症の方のうち治療をうけているのはわずか15〜30%という報告があります。
その原因としては、
などがあげられています。
骨粗鬆症で骨折する代表的な部位は背骨と太もものつけね(大腿骨近位部)です。
背骨の骨折(圧迫骨折)を起こすと、寝たり起きたりする動作で激烈な痛みが生じ、身の回りのことをすることも非常に困難な状態が続きます。
通常3~4か月ほどで骨が固まり痛みもとれてきますが、背骨の前方がつぶれて固まることにより腰・背中が曲がってしまうことがあります。そうすると歩く姿勢も地面をみながら歩くようになり、一気に老化がすすんだような見た目になってしまいます。
さらには見た目だけではなく、腰の曲がっている部分の筋肉には常に負担がかかり痛みが持続する場合があったり、腹部の臓器が圧迫されて逆流性食道炎が生じたりするリスクも高まります。
太ももの付け根の骨折はさらに大変です。
歩くことができなくなり手術が必要になります。さらに、75歳以上で大腿骨近位部骨折を起こした人の5年生存率は20%という報告があり、8割近くの人は骨折後5年以内に亡くなってしまうのです。
これらの骨折は骨粗鬆症の非常に怖い面を示しておりますが、骨が減るのはこの2カ所だけではありません。
手首や肩、骨盤で骨折を起こすこともありますし、顎の骨が減って歯が抜けやすくなったり、顔面の骨が萎縮して顔のしわが深くなったりすることもあります。
すなわち、しわやたるみなど老け顔の原因にもなるのです。
骨粗鬆症による骨折はとても重大なことです。
まずは骨粗鬆症であるかを適切に診断することが大切です。
私が医学生だった頃は骨粗鬆症の治療といってもビタミンDがあるくらいで、骨折を予防するという概念はありませんでした。
しかし、その後骨粗鬆症研究が急速に発展し、骨折を予防する手段がどんどん登場してきました。
骨粗鬆症と診断されても、適切な治療により骨折のリスクをかなり減らすことができるようになりました。にもかかわらず、治療をはじめて1年で50%の方が自己中断してしまうという報告もあります。
誤った知識のためにせっかくはじめた治療を自己中断してしまい、骨折をおこしてしまう方を私も多くみてきました。皆が正しい知識をもって骨に向き合っていくことが重要です。
骨粗鬆症の診断は骨密度検査と脊椎のレントゲン撮影にておこないます。
脊椎のレントゲン撮影では、既に骨折をおこしたことがあるかどうかを確認します。
全く痛みも伴わず、知らないうちに骨折を起こしていることもあるため、初めに確認します。
骨密度検査として、かかとの超音波検査、手指のレントゲン写真を用いる方法、2種類のX線を用いて正確に骨密度を測定するDXA法などがあります。
中でも腰椎と大腿骨近位部(ふとももの付け根)の骨密度を測定するDXA法が最も正確で世界の標準となっており、日本のガイドラインでも推奨されております。当院でもこのDXA法にて骨密度を測定しております。なお、X線被曝を気にされる方がいらっしゃいますが、本DXA法の被曝量は東京-ニューヨーク間の飛行機搭乗時の被曝量の3/4程度以下といわれているので、心配する必要はほとんどありません。
DXA法にて測定された骨密度が低いほど骨折しやすくなりますが、若い人の70%をきるあたりから骨折しやすくなるため、70%以下を骨粗鬆症と診断します。なお、70%は切っていないが80%以下の場合は骨量減少と呼び、骨粗鬆症の手前の状態と考えられますが、他のリスク(例えば糖尿病など生活習慣病)がある場合は骨折をしやすくなるため、治療が必要となることがあり注意が必要です。
以上の如く骨粗鬆症の診断に骨密度は最重要ですが、骨の量だけではなく質も大切です。骨の質を評価する方法は発展途上ですが現在精力的に研究されており(日本が世界をリードしています)、これからの日常臨床でも活かされることが期待されております。
骨粗鬆症と診断された場合は、さらに骨の代謝の状態を調べるため血液検査を実施します。
骨形成マーカー、骨吸収マーカーをみて骨の形成が落ちているか、骨の吸収が多くなっているかを判断します。骨の代謝に必要なビタミンDが足りているかも測定します。腎臓の機能も骨の状態に重要なため調べます。
骨粗鬆症と診断されると基本的に薬物療法が推奨されます。
もちろん、食事と運動は大切ですので最初に説明します。
骨に特に重要なものはカルシウム、ビタミンD、タンパク質です。
骨はタンパク質の一種であるコラーゲンにカルシウムが沈着して作られます。
すなわち骨の構成要素であるカルシウムとタンパク質をとることがとても重要です。
Caの推奨量は米国では500~1,200 mgとされており、我が国では700〜800mgのカルシウム摂取が勧められています。
食事でとったカルシウムは腸で吸収されて骨に作用します。
ビタミンDの主な作用はこの腸におけるカルシウムの吸収を促すことです。
ビタミンDが足りなければいくらカルシウムをとっても吸収されず、多くが排泄されてしまいます。ビタミンDには筋肉を強くしたり、とっさの反応(反射)をよくしたりすることにより転倒防止の効果もあります。さらには、免疫を強くする効果も報告されています。
従って、ビタミンDを摂取することが大変重要となります。
ビタミンDは鮭などの脂っこい魚、椎茸などのキノコ類に多く含まれております。
日本人の食事摂取基準では8.5μg/日(2020年)とされていますが、骨粗鬆症治療ではさらに多くが必要であり、2015骨粗鬆症のガイドラインでは400-800 IU (10〜20μg)が推奨されています。ちなみに米国では一日の推奨量は600 IU (1000から2000 IUまではOK)(米国食品栄養委員会)とされており、耐用上限量は100μg(4000 IU)でこれ以上摂取するのは危険といわれております。
米国の牛乳のほとんどは、1クォート(0.946リットル)あたり400 IUのビタミンDで強化されており、オレンジジュースにもビタミンDが添加されているものがほとんである一方、日本においてはそのような製品はほとんど見あたりません。
したがって、ビタミンDのサプリメントを取り入れることはとても有用です。
その際は取り過ぎに注意が必要です。一粒で5000 IUにもなるサプリも販売されており、専門の医師に相談することが大切です。
また、日光にあたることも重要です。紫外線に当たることで皮膚におけるビタミンD生成が促されます。実際、日光に当たって皮膚で生成されるビタミンDが7割、食事から3割といわれるくらい紫外線は重要な働きをします。
美容・美白のため、また皮膚がんのリスクなどを心配して過度に日焼け止めを使い過ぎると、ビタミンD不足になる可能性が高まります。
最新の研究では、実に日本人の98%がビタミンD不足であると報告されています。
食事に気をつけること、適度に日光を浴びることが非常に重要です。
また、最近紫外線B破(UVB)のうち、ビタミンD生成に必要な約290-310nmの波長のみを通過させ、有害な波長(約315-380nm)を効果的にフィルタリングするというビタミンD促進SPFテクノロジーを用いた日焼け止めクリームも商品化されており、骨粗鬆症を意識する方には有用でありそうです。
骨に負荷・衝撃を加えることにより骨は強くなります。
すなわちウォーキングは手軽で良い運動です。
ジョギング、ジャンプ系の運動と強度があがるにつれ骨を強くする効果は高まりますが、関節への負荷や心肺機能との兼ね合いで、適切な運動を選ぶことが重要です。
ウォーキングも大変な方は、片足立ち(転倒に気をつけてつかまりながら)や踵落としも効果があります。
片足つかまり立ちを左右1分ずつおこなうと、53分間のウォーキングと同様の負荷を骨に加えることができるという報告があり、簡便かつ非常にすぐれた運動です。
また、振動系のマシーン(パワープレート等)により骨密度が増加するという報告もあり、有用である可能性があります。
大きく分けると骨が溶けるのを抑える薬(骨吸収抑制薬)、新しい骨を作るのを助ける薬(骨形成促進薬)、その他に分けられます。
骨を溶かす細胞(破骨細胞)をやっつけることにより、骨吸収を抑制し、骨密度を上昇させ、骨折を抑制する効果を発揮します。内服薬と静脈注射薬があります。
内服薬には毎日内服するもの、週に一回内服するもの、4週(もしくは1か月)に一回内服するものがあります。
静脈注射の場合は1か月に一度のタイプと一年に一度のタイプがあります。
顎骨壊死・非定型骨折という副作用が発生する可能性があります。
破骨細胞が産生される過程を抑え、さらにできあがった破骨細胞の活性化も抑えることにより強力に骨吸収を抑制します。
骨密度を上昇させ骨折を抑制する効果も高い注射です。
半年に一回皮下に注射します。安全性の高い注射ですが、長期投与後に急に中止する場合は骨密度が急に低下することがある点は注意が必要です。
体内のエストロゲン受容体に対して部位ごとに異なる作用を示す薬剤です。すなわち、骨においては骨のエストロゲン受容体に作用し、破骨細胞の活性を低下させ、骨吸収を抑制する一方で、乳腺や子宮ではエストロゲンの作用をブロックする働きがあり、エストロゲン依存性のがん(乳癌や子宮癌)のリスクを抑える可能性があります。
骨形成を促進する皮下注射です。
腰椎の骨密度を高め、椎体骨折を抑制する効果がとても高い注射で、自己注射とクリニックで注射するものがあります。
自己注射には毎日するものと週に2回するものがあり、最大2年間注射することができます。また、クリニックで注射するものは週に一回で、こちらも最大2年間注射することができます。
骨形成を促進する皮下注射です。
腰椎の骨密度を高め、椎体骨折を抑制する効果がとても高い注射で、毎日自己注射し最大1年半注射することができます。
骨形成を促進するとともに骨吸収を抑制する効果もあります。
腰椎や股関節部の骨密度を高め、骨折を抑制する効果がとても高い注射で、皮下注射を月に一回、12か月間継続します。
ビタミンDは食事から摂取するものと、日光にあたることにより体内で生成されるものがまずは重要です。ただ、日本人においては圧倒的多数が不足しており、サプリメントも有用であります。
これら天然型のビタミンDが肝臓腎臓で活性化され活性型ビタミンDとなり、腸からのカルシウム吸収を促進し、骨における石灰化を助けます。
従いまして腎機能が低下しているとビタミンDの活性化が障害され、ビタミンDの作用が十分に発揮されなくなります。
医療機関で処方するビタミンDは活性型ビタミンDであり、サプリメントで販売されている天然型のビタミンDよりも腸からのカルシウム吸収を促進する作用が強く、さらには石灰化を促進し骨吸収を抑制する効果もあり、骨粗鬆症の治療薬として用いられます。
一方で血液中のカルシウムが高くなりすぎることが稀にあり、定期的な血液検査が必要です。
骨の石灰化を助けて骨形成を促す効果があります。